陰と陽

次のカペ・グリの曲目は、いきなり知名度の高い名作2曲だ。小編成で通好みのプログラムで行くのかと思ったら、突然メジャー路線に転換かと驚く向きもあったが、編成を柔軟に変えながら活動していきたいという発足当初の方針を実践していこうというわけだ。

20番のピアノ協奏曲は、映画「アマデウス」を思い浮かべる方も多いと思う。エンド・クレジットに流れる第2楽章が印象的だが、雪の舞う街をモーツァルトがふらふらと歩く場面に使われていたのが第1楽章冒頭で、まさにこの作品のイメージは「冬」だ。書き上げたのも2月。もっぱら華やかで明るいのが常だったピアノ協奏曲には異質な、暗くデモーニッシュなニ短調で、その響きからは「死」が連想される。

対して「ジュピター」の愛称をもつ41番交響曲ハ長調は夏に書かれた。モーツァルトが夏に交響曲を書くのは異例なことだったようだが、まさに夏の青空を思わせるように明るく、力強く始まるこの作品は、生命力に満ちている。

このように陰と陽の如く対照的な2曲だが、実は色々な面で共通している点が多く、例えば画像のように、全く性格の違う場面に、全く同じ音型が使われている。

このような深い関連性を熟考の末、今回のプログラムは選ばれた・・のかどうかはあえて明かさずにおくことにして、モーツァルトの音符が求める高峰にほんの少しでも近づけるよう、あと1ヶ月曲と向き合いたい。(伊藤理恵/音楽監督)

Cappella Glicine

カペラ・グリチネは、モーツァルトのピアノ協奏曲全曲演奏を目指して、同時代の様々な作品も取り上げ、緻密かつ柔軟にアンサンブルを楽しむことを目的として結成された、アマチュア室内オーケストラです。

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